発生生物学研究室│埼玉大学大学院理工学研究科生命科学部門 理学部生体制御学科

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研究内容

脊椎動物個体発生及び脳形成の分子的制御機構の研究

 脊椎動物の発生において、個々の胚細胞は、細胞分裂、移動、分化、そしてアポトーシスなど、様々な過程を経た後、最終的には精巧な3次元構造を持つ個体に組織化されます。この驚くべき現象は、細胞核内にある多数の遺伝子群が、整然と秩序だって発現することにより制御されますが、これを可能とするのは、胚内の細胞及び組織間で起こる精密な相互作用です。

 さて、脊椎動物の脳は、自然界で見られる最も複雑な構造体の一つであり、その発生は、それ自体が極めて興味深い問題であるだけでなく、医学的に見ても非常に重要な研究課題です。初期胚において、いわゆるシュペーマンオーガナイザーにより誘導されて生じた予定神経領域は神経板を形成しますが、この神経板はその後、胚体後方に由来する後方化シグナルの作用を受けて前後軸に沿って方向性を獲得します。この一方で、神経板(神経管)の腹側に生じる脊索(中軸中胚葉)と背側の予定表皮から生じるシグナルにより、予定脳領域の背腹軸に沿った方向性が確立します。これに引き続いて、この領域内で中脳後脳境界(Midbrain-Hindbrain Boundary, MHB)、前方神経隆起、あるいは後脳第4菱脳節と呼ばれるシグナル分泌領域(シグナルセンター)が生じ、この各々が周辺脳領域の誘導、パターン化を誘起することで、脳の領域化が進行します。そしてこれらの段階的な神経板の組織化が、その後の脳発生において、驚くべき高次機能とその構造的基盤である脳高次構造が実現する上での基盤となるわけです。

 本研究室が目指している主要研究課題は、脊椎動物発生における脳の形成とその領域化を支配する分子レベルの制御機構であり、現在、その中でも特にMHB とその周辺脳領域の形成に焦点を当てて研究を進めています。MHBは、予定中脳と予定後脳の境界に生じる局所シグナルセンターであり、前方では中脳視蓋と被蓋の形成、後方では主として小脳の形成を誘導します。これまでの様々な研究から、 MHB自体、神経板内あるいは神経板とその腹側に生じる中軸中胚葉の相互作用により誘導され、MHBの確立とその後の発生には、 otx2, gbx2, pax2, engrailed などの転写因子遺伝子、 fgf8 wnt1といった分泌因子(成長因子)遺伝子が関与することが明らかとなっています。従って、MHB形成は、胚組織間での相互作用および組織、時期特異的な遺伝子発現制御により制御される典型的な発生過程と言えます。なお、このような脊椎動物の脳形成の仕組みを解明するための実験モデルとして、ゼブラフィッシュ( Danio rerioを用いています。

≫ゼブラフィッシュとは?


図.ゼブラフィッシュ(他の脊椎動物でもほぼ同様)胚神経板において中脳後脳境界(MHB)の決定に関わる制御遺伝子

現在の主要研究課題は以下の通りです。

1.MHB/峡部の発生における gbx2ホメオボックス遺伝子の役 割の検討

  gbx1 gbx2はいずれも動物界で広く保存 されているGbx型ホメオドメイン転写因 子をコードしています。私たちの研究室からの報告(Kikuta et al., 2003)を含む過去の研究の結果、 gbx遺伝子は、これまで調べられた脊椎動物の全てにおいて、脳形成の初期で のMHBの確立とその後の維持、そしてさらに峡部形成を制御することが分かっています。私たちは、ゼブラフィッシュを用い、 これらの遺伝子が脳形成で果たす 役割についての分子・遺伝子レベルでの理解をめざしています。


図.ゼブラフィッシュ24時間胚における gbx2の 発現。MHBでのgbx2の発現を矢印で示す。

2.MHBおよび他の胚領域の形成におけるpou2遺伝子の役割の検討

 pou2はゼブラフィッシュのPOU型ホメオボックス遺伝子の一つとして同定されましたが、その後、MHB及び後脳の形成に必要であることが明らかとなりました。哺乳類における相同遺伝子とされるOct3/4 (Pou5F1)は、マウスの発生初期での細胞分化の制御と生殖細胞の形成において重要な役割が知られています。また、再生医療等で注目されている胚性幹細胞(ES 細胞)の分化全能性の維持に不可欠であり、再生医療という応用研究分野においても注目される遺伝子です。私たちは、初期細胞分化および脳形成を含むゼブラフィッシュの胚発生の様々な局面で予想されているpou2の機能について、分子・遺伝子レベルでの理解をめざして研究を行っています。また、下記のように、pou2遺伝子の脳領域に特異的な発現(転写)の制御機構についても解析を進めています。

3.脳の発生を制御する遺伝子の転写制御機構

 脳の領域化に関わる調節遺伝子は一般に胚の特定領域において特定の時期にのみ発現します。従って、予定神経領域内における位置決定の分子メカニズム(位置情報)を理解することを目的として、私たちは現在MHBあるいはその近傍にのみ特異的に発現する脳形成遺伝子(gbx2, fgf8, hoxb1b, pou2* )の転写制御機構を研究しています。このような研究では、トランスジェニック魚(遺伝子導入魚)の作成や蛍光性のレポーター遺伝子(GFPなど)の生体胚における追跡が容易なことから、ゼブラフィッシュは非常にすぐれたモデル動物と言えます。実際、私たちはすでにこれまでに、研究の対象とする遺伝子の近傍に多数の転写調節領域を見いだし、さらにこれらの遺伝子の制御を行う転写調節因子を明らかとしつつあります(Inoue et al., 2006; Islam et al., 2006)。

図.ある脳形成遺伝子の転写調節領域により、MHB特異的に緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するゼブラフィッシュ胚(左)。右は明視野像。
図.ゼブラフィッシュ fgf8遺伝子の周辺に見いだした領域特異的転写調節領域。青四角と青字はエクソン、赤四角と赤字は保存配列 (Inoue et al., 2006)

4.ゼブラフィッシュ胚発生におけるFGFシグナルの役割の検討

 哺乳類の場合、これまでに22種の繊維芽細胞成長因子(Fibroblast Growth Factor, FGF)が見いだされていますが、この成長因子により伝えられるFGFシグナルは、脊椎動物の発生の様々な局面で重要な役割を果たす分泌性シグナルの一つです。実際FGFシグナルは、初期胚での中胚葉・神経誘導、胚体の背腹軸の確立を行い、その後、脳、四肢、骨、内臓を含む多くの様々な器官のパターン形成を行うことが知られています。初期発生及び脳の領域化(特にMHBとその周辺領域の領域化)におけるFGFシグナルの役割を明らかにすることを目的として、私たちは、4 種あるFGF受容体(受容体型チロシンキナーゼ)とFGFシグナルの修飾因子のゼブラフィッシュ胚における機能の検討を進めています(Tonou- Fujimori et al, 2002)。

5. 脳形成異常を示す突然変異体のスクリーニングと原因遺伝子の探索

 一方で、脊椎動物において脳の形成を制御する遺伝子を新たに同定することを目指し、脳形成異常変異体の作製を行っており、得られた変異体の一部については、すでに原因遺伝子の同定を進めています。

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